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「おい、お前がトカイもんか?」
そろそろ川の流れを眺めているのも飽きてきた時、背後から突然声をかけられた。徐に振り返ると目の前には3人の少年が立っていた。相手に気圧されて僕も無意識に立ち上がる。
「あ、あの……」
人見知りの僕は当然答えに窮した。すると一瞬にして上下関係を察したのか、一番大きな少年の口元がニヤリと歪んだ。
「母ちゃんに遊んであげろって言われたんだよ。……で、トカイっておっきくて、人がいっぱいいて、すごいんだろ? お前も強いのか?」
少年はいかにもガキ大将といった感じで恰幅がよく、侍の真似事なのか腰に竹刀を差している。都会の何がすごくて強いのか、都会育ちの僕には全く分からなかったが、きな臭くなってきたことだけは肌で感じ取れた。 僕が戸惑いを隠そうともせずキョロキョロと三人を見回していると、大柄な少年が口を開いた。
「俺はたけし。こいつはつとむ」
彼は親指でクイッと後ろを指した。
「僕はけんた」
それからもう片方の子は自分で名乗った。
「で、トカイから来たってことは強いんだろ?」
たけしという子の頭の中にはその一点しかないらしい。再びぶっきらぼうに尋ねてきた。
「いや、僕は……」
「何だよ、はっきりしないやつだな。まあいいや、勝負してみればすぐ分かるからな。おい、つとむ」
たけしが顎で僕を指すと、つとむはへへえと腰巾着さながら進み出て、竹刀を僕に押し付けた。
「三本勝負な」
拒否する間もなく竹刀を受け取ってしまったが、僕はどうしていいか分からなかった。無理もない。剣道などしたこともなければ竹刀に触れたこともなかったのだ。
僕が一向に構えようともしないので、業を煮やしたたけしは声を上げて振りかぶった。僕は咄嗟にガードしようと竹刀を上げた。しかし途端に僕の手の甲に痛みが走り、竹刀を取り落とした。たけしは
「コテエエェェ!」
と奇声を発していた。
「やっぱりトカイもんは大したことねえな。ほら、次!」
足元に転がった竹刀をたけしは蹴って寄越した。
手をさすっていた僕は顔を上げると、獲物をいたぶるようにニタニタ笑っているたけしの顔が目に入った。背筋に悪寒が走り、僕は思わず逃げ出した。
後ろから待て待てと叫び声が聞こえるが、無我夢中で走り続けた。
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