あの夏

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 けんたが連れてきたのは林道を逸れたところにある洞穴だった。それも小さな洞穴ではなく、入口からは奥が見えないほど深そうな穴である。けんたは相変わらず躊躇いもなく進もうとしたが、僕は足がすくんだ。 「大丈夫だよ、奥まで行く必要はないからさ」  けんたはニカッと微笑むと、臆することなくそのまま中へと入って行った。僕は仕方なく洞穴に足を踏み入れ、しばらく彼に付き従ってみたが、入口の光が見えなくなるギリギリのところでけんたを呼び止めた。  けんたはやれやれと首を振った。 「強くなりたいんじゃないの? たけしくんに勝つために必要なのは、力じゃなくて勇気だと思うよ」  僕は驚いた。僕はたしかに自分の弱さを克服するためにここへ来たのだが、それはまだ誰にも話していない。それなのにけんたは知っている。けんたには何か心を見透かされているような気がして、少し寒気がした。  しかしすぐに、それはこの場所のせいだと思い至った。けんたは涼しい場所と言っていたが、たしかにここはヒンヤリしていて心地よい。それでいて地面が湿っているわけでもなく、僕たちは腰を下ろした。 「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね」  僕は慌てて自分の名前を教えた。それから僕はけんたから質問攻めに遭った。けんたは僕の、都会の学校や生活のことにとても興味を持ったようで、次から次へと質問を繰り出し、僕は答えるのに必死だった。しかしけんたは、僕の答えに逐一喜んだり驚いたりするので、話している僕もいつの間にか打ち解けていた。場所が場所だけに、何やら二人だけの秘密を共有しているようで僕はずっとドキドキして、そして初めて友達としゃべることの楽しさを知った。この日僕は初めての友達ができた。
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