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しかし次の日、僕はあっけらかんと洞穴へ向かっていた。自分でも驚くことだが、僕は初めて人に逆らい、危険を冒してでもけんたに会いたいと思った。今までそんなことは決してなかった。何と言っても大人に怒られないようにビクビクと生きてきたのである。
案の定けんたは洞穴の前で待っていた。僕は嬉しくて足が弾んだ。
「よお」
しかし洞穴に着く直前で、背後から聞き覚えのある声をかけられた。気持ちが一気にブルーになる。
「お前、昨日川に来なかったからな。お前んちを張ってたんだよ」
たけしはニタニタ意地悪な笑みを浮かべたが、僕は構わず駆け出した。この間と同じく待て待てと制止がかかるが、洞穴の前を過ぎ去り、林を抜け出て川べりへ躍り出た。
「あっ」
しかし下り坂を勢いよく駆け下りたため、足をくじいて転んでしまった。無慈悲にもそこにたけしが追い付き、竹刀を抜いた。
「辞めなよ、たけしくん」
けんたが諫めようとしてくれている。しかしたけしは聞く耳を持たない。獲物を嬲るようにたけしは竹刀で小突いたり先端を這わせたりしてくる。僕はすがるような目でけんたの方を見遣った。しかし、今しがたそこにいたけんたが見当たらない。あまりの情けなさに愛想を尽かしたのだろうか。僕は急に怖くなった。
「僕、戦うよ」
意外な言葉に不意を食らって、たけしは一瞬ポカンと口を開けたが、ニンマリ笑うとつとむに竹刀を放るよう合図した。ぎこちない構えをし、全身をぶるぶる震わせながらたけしと対峙した。転んだため、体のあちこちがヒリヒリする。
つとむが試合開始の合図をすると、たけしがすかさず打ち込んできた。僕は彼の攻撃を受け止めるのに必死だった。
「ふうまくん。逃げるだけじゃダメだ! 攻撃して!」
声の方を振り向くと、けんたが戻ってきてくれたのか、声援を送ってくれていた。しかし隙アリとたけしは連撃を加えてきたので、僕は試合に集中せざるをえなかった。それからも僕は後退する一方だったが、けんたの声援と、昨日の彼の言葉に目を覚まさせられた。
『強くなりたいんじゃないの? たけしくんに勝つために必要なのは、力じゃなくて勇気だと思うよ』
僕は急に、声を荒げながらがむしゃらに竹刀を振り回した。負けるにしても立ち向かって負けた方がいい。そして何より、せっかくできた友達にがっかりされるのが嫌だった。
しかしたけしは余裕の表情でひょいひょいと躱している。まるで剣で受け止める必要すらないと煽っているようだ。
それでも僕はただ前に突き進んだ。躱され続けるので、とにかく深く深くたけしの懐に飛び込んでみた。すると僕の猪突猛進は予想外だったのか、たけしのステップが乱れ、間合いを取ろうと大きく後退した。
「あっ」
言うが早いか急にたけしが視界から消えた。残された三人は、彼が土手を転がり落ちていく様を突っ立って眺めていた。
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