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平屋の民宿を借りて、県大会を見据えた強化合宿を、演劇部員24名と顧問2名の大所帯で乗り込んだ。
初日の通し練習を終え、パートごとの反省会を終えたのち、各自風呂に入るなり自由時間を満喫していた。
手作りロゴマークの入った部員揃いのTシャツに着替えて、年季の入った縁側を歩く。浴場から男子部屋への道すがら、先輩方のラブシーンに出くわした。
そして外廊下の襖の先、それを見つけてしまって陰に固まる同学年のキーマちゃんの後ろ姿も同時に見つけた。
どうやら、雑草の生い茂る庭すらロマンチックに演出する主役達が目立って、部長もミル先輩も、見ているキーマちゃんを俺が見ていることに気付いていないようだ。
多分、初めて生でキスを見たのだろう、丸い背中を見守る。
冷房が効いた母屋からの仲間の声が、庭先から立ち昇る匂いに遮断される。俺は暑くもないのに、揃いのTシャツの裾をつまんで臍の辺りでゆらす。
8月の夜が長いせいだ。厄介な感情を連れてくる。
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