出会い(etude)

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出会い(etude)

 ジョニー、と呼ばれる俺の名前はもちろん本名ではなく、この演劇部での芸名である。断じて言うが自分で命名していない。目の前にいる先輩方にノリで付けられた。  高校入学式。真新しいブレザーを着てそれなりに緊張していた俺は、正門前で勧誘に勤しむ部活動団体の中、天使に声をかけられた。 「わぁ、君カッコいいね! ジョニーって感じ」  天使は、俺や周りの同級生と同じ制服を着ていた。  ブルーグレーのプリーツスカートから惜しげもなく膝上10センチを見せている。紺色のブレザーの背中から、白い羽根が生えていた。赤茶色のボブの頭には、蛍光灯のような輪っかが浮かんでいる。 「背も高いし、舞台映えしそう。ジョニー! 体育館で待ってるからね」  そう言ってチラシを一枚渡されると、新入学生の流れに飲み込まれた俺は、必死で振り返った。  右手に握られたチラシには『演劇部 体育館舞台で待っています!』の文言が踊っていた。言葉の通り、文字は紙面の向きを無視して左右逆の鏡文字だったり斜体だったり、本当に踊っていた。  一応進学校のはず、と頭を掠めるも、遠くで手を振る天使が忘れられなかった。  日本男子らしい名前(本名)を持ちながら、突然命名された『ジョニー』の名前をこそばゆく感じながら、翌日、体育館へ向かった。
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