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高校生活初日で遭遇した天使こそ、ミル先輩、その人だった。
新入生を捕まえて「舞台映えしそう」とか言いつつ、鋭い瞳を持つその美人は演劇部員の2年生だった。
その日も背中から両翼が飛び出ていた。が、よく見れば、頭のAngel haloは、針金が付いていたし、羽を模したものはリュックサックのように両脇から背負われていた。
入部検討のため訪れた体育館で、満面の笑顔でミル先輩は僕を受け入れたが、
「おお、1年生、来てくれたんだ! 大歓迎、名前は?」
(……名前なら、あなたに命名されましたが)
名付け親に忘れられた大型犬のように、無言でしょげる俺に、
「ミル。彼に名前つけてたでしょう、勝手に。彼に『カリブの海賊』を上演させたいのかな」
男前がやわらかな瞳で受け止めてくれた。
口を開く度、前髪がさらりと音を立てた。公家顔と形容するのがしっくりするその人は、
「見学に来てくれてありがとう。入学式に声をかけてしまったようで、ごめんね」
演劇など一ミリも興味がなく、天使の所在確認だけが目的の俺を、快く受け入れてくれた。
その男前こそ、演劇部の部長だった。
「芸名なんだけど、ぴったりだからジョニーでいいよね?」
部では、新入生が先輩に芸名を授けられる慣例らしい。
有無を言わせない笑顔に抗えず、俺はあっけなく『ジョニー』と名付けられた。
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