31人が本棚に入れています
本棚に追加
中学でバスケ部だった俺は、初心者もいいところで、小学校で連れて行かれた『ライオン・キング』のミュージカル以外、舞台なんて見たことがない。
初日は、演劇部の活動拠点である体育館の舞台で、部長から説明を受けた。
高3は既に引退して、先輩は高2生のみの10名。
部長、副部長、会計、広報部長、勿論それぞれ芸名を持っている。
それ以外の6名の中に、ミル先輩(本名 るみさん)がいた。天使の格好に違和感ない美人にも関わらず、キャストではなく、照明係のチーフだった。
即興劇の練習、裏方の仕事、上演のルールなどを、部長は丁寧に説明してくれた。
正直、文化系部活動を舐めていた。
発声練習、ストレッチなどの基礎力強化は、運動部と大差無いほどきつかった。そして裏方の仕事の細かさ、上演のルール。
そして、演劇部にも大会があることを初めて知った。
他の部活と同じように、地区大会があり最終的には全国を目指し、夏の大会に向けて集中しているそうだ。
驚いたのは、勝ち進んだのち、全国大会は翌年の夏に実施されることだった。
「受験生になるから、来年引退しないといけないんだけど。それを阻止したい」
部長の滑舌良い声は、熱意を湛えていた。
去年は地区大会で敗北を喫しているから負けられないんだよ、と俺の名付けの親・ミル先輩が耳打ちして教えてくれた。
右頬にふわりといい香りが掠める。中学で数名と付き合った経験がある俺は異性に免疫はあるのに、なぜかこの先輩の無防備さに慣れないでいた。
「仮入部は今月末まで。1年生で興味持った人は、一緒に県大会まで行こう」
出場を確信する発言に、生半可じゃ無理なところに来ちゃったなと後悔した。
その反面、貴族顔の部長と針金製の天使、それ以外にも妙なオーラのある先輩達に、俺はすっかり魅入られていた。
最初のコメントを投稿しよう!