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二人きりのオフィス。 自分より30cmも背が高い男。 へたしたら体重も30kgくらい重いかもしれない。 壁時計の秒針と、ドライ設定にしてあるエアコンの電子音だけが響く。 時崎が動いた途端に、オフィスチェアがギシっと派手な音を立て、奈緒子はびくっと身を竦めた。 「何、ビビってんですか」 時崎は笑うと、発注書の山を自分のデスクに置いた。 「ーーーちょっと、何してんの?」 パソコンを起動させている男を睨む。 「今月末まではここの社員なんで」 言いながら、発注書にチェックを入れていく。 「山磨病院の手指消毒アルコール、食品添加物用って書いてありますけど、これって品薄だった時の代用品のままですよね。 今はもう納品も安定して入ってくるので、通常の消毒アルコールに戻して大丈夫じゃないですか?明日、聞いときますね」 奈緒子の答えを待たずに、それをディスプレイにテープで貼ると、他の発注を次々に打ち込んでいく。 「どういうつもり?今更私に恩売ったって何もなんないわよ」 奈緒子は時崎の感情の読み取れない顔を見上げた。 「もちろん下心はありますよ」 その言葉に眉をひそめた奈緒子を時崎は楽しそうに見下ろした。 「この仕事が片付いたら、一杯付き合ってもらいます」
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