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綺麗な花には毒がある
─────綺麗な花には毒がある。
「なぁに?それ?」
香菜がぽつりと呟いた言葉に、しどけない格好をした晩香玉は猫撫で声で反応した。
「薔薇には棘がある、鳥兜には猛毒がある」
淡々とした口調で言い終えると、香菜は茶を啜る。
「なぁんか私たちみたいねぇ?」
晩香玉は何か含みのある言い方をする。
「玉姐、あんまり軽口叩いてちゃ楼主がどこぞのお偉いさんに身請けさせちゃうかもよ?」
香菜はふんっと鼻を鳴らす。
対して、言われた側の彼女はどこか余裕を含む笑みを浮かべた。
「あら?私はこの仕事でも優秀だから大丈夫よ?」
顎に手を当てこてんと頭を傾げる様は妓楼仕込みの手練である。
「……はいはい」
言い返された香菜はどこか納得のいかない表情で、唇を僅かに尖らせた。
その後は暫く無言が続き、先に口を開いたのは香菜だった。
「………ってか、酒臭いんだけど」
それもそのはず、晩香玉の右手には盃が見える。
つまりは"そういうこと"だ。
「昼間っから飲まないでよ、客に匂いでバレちまう」
「誰もが憧れる晩香玉は優雅で色気も兼ね備えた完璧な妓女なんでしょ?印象崩壊だよ」
そう言って香菜は、窓淵に寄りかかり煙管をふかす。
室内には白い煙が漂い、不思議な雰囲気を纏わせるがこの煙は毒だ。
少量では死なないが、多量すれば毒になる。
尚、花街でこのことは医療に準ずる者以外は知らないが、横にいる晩香玉は例外だった。
晩香玉は呆れた顔を浮かべる。
「……それ、毒って言って無かったっけ?」
晩香玉の言葉に香菜は、ふっと息を吐く。
「別に、少量なら大丈夫だよ。それに今日は吸いたい気分なの」
香菜は苛苛しているのか、吐き捨てるような口調となっていた。
「何かあったの?」
晩香玉がそう問えば、香菜は持っていた煙管を窓の縁に置くと、一枚の紙を持ってきて晩香玉に渡し、こう答えた。
「これが原因」
晩香玉は渡された紙の中身を確認する。
流麗な字で、ご丁寧にも白檀の香を焚き染めたもので一見すると恋文のようなものだった。
しかし中身を良く確認してみればそれはすぐに間違いだと気づいた。
読み終えた晩香玉はこめかみに青筋を立てる。
「これは……」
要約すると、"香菜の薬は効かない。最悪の効能"………と香菜を貶めるような、馬鹿にするような内容が書かれていた。
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