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ー夢想楼ー
とある宮中の高官が花街へと向かう途中、道端でせっせと花を摘む小さな女の子を見かけた。
こんな所で一人で__、と高官は訝しげな表情を浮かべる。
高官はあたりを見渡す。
空を見上げると、日は傾き始め、空は緋色に染まっていた。
ここはまだ花街ではないが割と近い場所だ。
暗くなればその分、危険になる。
ただでさえ花街に近いというのにこの少女は楽しそうに花を摘んでいるのだ。
拐かされないか少し心配になり、声をかけようとした。
すると、こちらに気がついていない女の子は花を摘みながら歌う。
「いきはよいよいー、かえりはこわい。きれーなはなにはどくがある___」
ゾッと背筋に悪寒がはしった。
高官は、なんだか不気味だと思いながら冷や汗をかきながら目的の妓楼へと早足で向かった。
高官が去った後、暫くして女の子はサッと立ち上がり、高官と同じ方向、花街へと駆けて行った。
夜の帳が降りる頃、ぽっと一つ赤く揺らめく光が現れると、一つ、また一つと妓楼の灯りが街全体を照らしてゆく。
ここは、数多の蝶が舞う花街。
男は一夜の蝶と戯れ俗世から逃れようとする。
金銭を通した男女の恋慕がこの街で数多生まれる。
男は一夜限りの恋を買い、女は春を売る。
そうして朝になればまた元に戻り、夜がくれば恋をする。
そうして花街は成り立っているのだ。
中でも一際目立つ大きな妓楼には花街でも有数の美妓が揃っている。
その名は、夢想楼。
夢想楼には五人の上級妓女がおり、芸を売るもの、身を売るものそれぞれである。
夢想楼の妓女は皆、花に因んだ名前を付けられている。
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