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それから暫く経ったある日のこと。
一人の禿が私の元へ走って来る。
「───様!香菜が!」
禿に連れられ向かうと、香菜ともう一人別の禿がそこには居た。
香菜の目の前には禿が蒼白の顔面で倒れており、香菜はそれを黙って見つめていた。
(……まずいっ)
この禿は何かしらの毒を食んだのだろう。
私は禿に嘔吐薬を飲ませ、吐かせた。
「……ぅ、げほっ」
もう大丈夫だ。そう思い、禿を近くの寝台に横たわらせる。
隣にはいつの間にか香菜が禿を虚ろな目で見つめ続けていた。
ここに向かう途中、禿に聞いた話では、倒れた禿が香菜に対して暴言を吐いていたらしく、いつもなら無視する筈の香菜が突然何かが切れたように怒り出したらしかった。
(何でこの子が……)
私も不思議だった。この子は歳に似合わず冷静沈着の禿だ。
「……何があったんだい」
私が隣にいる香菜に聞くと、香菜はぎゅっと拳を握りしめ、やっとの事で口を開いた。
「……名前を、馬鹿にされたのです」
私は思わず拍子抜けした。
薬馬鹿だといつも同じ禿達に言われていることは知っていたが本人は、その通りだからと聞き流していた。
そんな香菜が名前を馬鹿にされるだけで怒る
のか。
そう疑問に思った矢先、香菜は言葉を紡いでいく。
「私のことを馬鹿にするのはいい。でも…………でも、せっかく楼主が私のためを思って付けてくれた大切な名前を馬鹿にすることが、楼主を馬鹿にしているみたいで許せなかったのです。」
そう言って香菜は俯く。
あぁ、この子はなんて優しい子なのだろう。
親に捨てられ人間不信になってもおかしくない子供なのに……。
私は香菜の手を握るとこう言った。
「……香菜、私のことを思ってくれたんだね。でも毒を盛ることはいけないことだと前に教えただろう?」
すると楼主の言葉を聞いた香菜は、とある葉を卓の上に置く。
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