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ー晩香玉の妓女ー
優雅な所作で室内に入ってきたのは、五人美妓の中でも一番の人気を誇る晩香玉だった。
膨大な色気を放つその妓女は、名前の通り、晩香玉の花の名を授かった妓女である。
晩香玉は夜になると香りが強くなり、甘い香りを放つ。
そしてこちらの妓女、晩香玉もまた、夜になれば今の何倍もの色香を放つ。
「おつかれだね、玉大姐」
はい、と香菜は、香菜の涼茶を差し出す。
晩香玉は肩を叩きながら、香菜から手渡された涼茶を一気に飲み干すと、目を見開きごほごほと噎せた。
「…どうたの!?大姐!大丈夫!?」
鈴蘭はあたふたと室内をぐるぐると回る。
対照に香菜は、「あー」と一言発したあと、水を晩香玉に差し出した。
晩香玉はそれをすぐに受け取り、また一気に飲み干す。
それはもうまた噎せるのではないかと鈴蘭が心配になるほどに_____。
晩香玉は水を飲み干し、ふぅーと息を吐くと叫んだ。
「にっがぁぁぁあぁぁぁぁぁい!!!」
先程までの色気のある声とは到底かけ離れた、例えるなら童がいやいやと駄々をこねるような、そんな声であった。
「何これ!?臭いし苦いし!」
晩香玉の愚痴に香菜は淡々とした口調で答える。
「まあ香菜は人によって好き嫌いが別れるものだからね」
「そうなの?」
晩香玉は先程とは一変してきょとんとした表情で香菜を見る。
鈴蘭もまた、晩香玉と同様の表情を浮かべた。
「玉姐どうする?これを混ぜた薬、渡そうか?」
「あら?もう出来てるの?」
晩香玉はまた表情を変え、いつもの調子を取り戻したのか壮絶な色気を放ち、色気のある声を発する。
「うん、飲む?」
香菜は、懐から薬の入った包紙を取り出し晩香玉に差し出すと、晩香玉は整った顔を大きく歪めた。
「被験者一号だよ、好きでしょ?一番」
香菜はにっこりと満面の笑みを浮かべるが、その後ろには何かどす黒いものが見えた。
鈴蘭はそれにぶるりと身を震わせ、晩香玉は首をぶんぶんと横に勢いよく振った。
「冗句だよ」
香菜は、差し出した薬をそのまま自身の口に含み飲み干した。
『…………』
そんな香菜の様子に、鈴蘭と晩香玉は先程とは打って変わって無言で呆れた表情を浮かべる。
ごくりと飲み干した香菜は尚も喋る。
「被験者一号は絶対的に私だからどっちにしろ大姐は飲めないよ」
そう言って香菜はぺろりと舌を出して唇の端を舐めた。
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