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「……ったくなんなんだよ」
香菜は音を立て床を殴る。
「これは酷いわねぇ」
晩香玉は右手を頬にあて呟いた。
「でしょ?ほんと最悪。」
そう言って香菜は窓の淵に置いた煙管をまた口につける。
ふうっと息を吐くと煙が部屋に充満し、室内はまた霧のように曇った。
「文の相手は誰か分かってるの?」
晩香玉はそう問うと、香菜の機嫌は更に悪くなる。
「分かってるから嫌なんだよ。」
「へぇ、誰なの?そこそこのお偉いさん?」
「お偉いさんはお偉いさんでも相手は宮中の中でもかなりお偉い高官様らしいよ」
毒でも盛ってやろうか、などと香菜はぶつぶつ呟いている。
晩香玉は苦笑しながらまた文に目を移した。
「楼主には言ったの?」
「いいや、まだ。でも多分ばれてる」
香菜は先程とは違い冷静な口調で答えた。
香菜は楼主に恩がある故にあまり心配をかけたくないのだろうが、そこは花街一の妓楼の楼主だ。
妓女の異変にはすぐに気づくだろうし、楼主はいつも妓女宛にくる手紙を検閲している。
香菜もそれは分かっているが、それでも余計な心配はかけたくない、ということで今こうして晩香玉に愚痴を漏らしているのだろう。
「依頼がくれば楽なんだけどねぇ」
そう言って晩香玉が立ち上がりこの煙が充満した室内を立ち去ろうと扉に手を掛ける。
「そんなことある訳な……」
香菜がそう答えたと同時に扉が開き、五人美妓の一人である、鈴蘭が顔を出した。
「香菜小姐、玉大姐!楼主から伝言!」
「擦除だって!」
『本当に来ちゃった』
香菜と晩香玉は同時に呟き、その口許は弧を描いていた。
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