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その日の夜、妓女たちが一夜の相手と閨を共にする頃、茶挽きの香菜は自室で薬草の選別と選別した薬草を調薬していた。
隣ではほろ酔いの晩香玉が、無駄に色気を放っている。
「玉姐、仕事は?」
「今日はあんたと一緒で茶挽きなのよ、んもうっ、なーんであたしを出さないのかしら?」
晩香玉は頬を膨らませ、杯に継がれた酒をくいっと飲み干す。
「何でここで酒飲むの?臭いって言ってるし薬草の選別がしにくい!」
香菜は怒りを露にし、晩香玉を追い出そうとその方ぐいっと押す。
「んもー外には客がいるのよ?ここでしか飲めないんだから仕方ないじゃない」
「自分の部屋で飲めばいいじゃん!その為の個室でしょ?」
香菜の言葉通り、上級妓女ましてや花街でも有数の美妓で五人美妓と言われる者たちにはそれ相応の対応がされる。
五人美妓にはそれぞれ個室があり、そこで香菜ならば調薬に没頭したり、他の者なら趣味に没頭したりするのだが、晩香玉は何故かいつも香菜の部屋で酒を飲むのだ。
しかも香菜が調薬をしている時に限って……
「何で調薬してる時に……」
香菜が態とそう呟くと晩香玉に先程の膨大な色気はなく、ただただ苦笑するだけだった。
暫しの無言が続きいたが、その無言を破ったのは晩香玉だった。
「……さ、お酒無くなったから帰るわね。あんまり根詰めすぎないようにね」
そう言って晩香玉は出ていった。
晩香玉なりに香菜を心配しているのだろうが、今は一刻も早く今作っているこの薬を完成させなければいけない。
やっと静かになる。そう思った時、晩香玉が出ていって僅か数秒、部屋の扉がすっと開く。
「……今度はだ……楼主。」
香菜の目の前には香菜の恩人であり、この夢想楼の楼主が扉の前にいた。
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