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楼主と呼ばれた五十路程の女は、腕を組み壁に寄りかかっている。
一向に動かない楼主に香菜は思わず眉を顰めてしまう。
「こうして二人で会うのは久しぶりだね」
突然楼主が口を開いたので驚いたが、香菜は顔には出さないよう、僅かな笑みを浮かべた。
「そうですね、最近は忙しいようですから……」
香菜は少し寂しげな表情を浮かべ下を向く。
「……」
楼主はそれを無言で見つめ、やがてまた口を開いた。
「……玉から聞いたわ、あんたが無理してるって」
「いつの間に……」
やはり抜かりない大姐だ。いつ楼主に話したのやら。
そんなことを思いながら香菜は手に持つ薬草を見つめる。
そんな香菜の様子を見つめながら楼主は言った。
「鈴から聞いたろ?彼の御方からの依頼とはいえ、私が依頼したものでもある」
楼主が何を言いたいのか香菜にはよく分からなかった。
楼主が言っている彼の御方とは鈴蘭が伝言と言って伝えに来た"擦除"に関係する人物である。
自分達よりも遥かに身分の上の御方だとは知っているが、それが、どのような人物なのか香菜には知らない。
「───香菜、あたしの一番弟子はあんただ。いくら仕事とはいえ無理はするなと教えたはずだよ」
そう言って、楼主は香菜の手から薬草を取り上げる。
「……ぁあ!楼主、もう出来ますから、それを調合すれば完せ……」
「駄目だよ」
香菜の反論も虚しく、楼主はばっさりとその言葉を吐き捨てた。
「放っておくとあんたはすぐ無理をする、危なっかしいんだ。」
「あの時だって…………」
そう言って楼主は遠くを見つめた。
(これは……思い出に浸っている顔……)
楼主は突然思い出に浸り出す。
面倒だなと思いながらも、香菜は楼主がこちら側に戻って来るのを待つことにした。
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