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これはまだ私が夢想楼の楼主を引き継ぎたての頃だった─────。
「───様!」
誰かが私を呼ぶ。
「あぁ、香菜かい」
私は女衒屋から買った禿の頭を撫でた。
名は私が付けた。他の者にはそれぞれ可愛い花の名を付けたが、この子には香菜という、花とも言いきれないが雑草とも言いきれない植物の名を付けた。
「今日は何してたんだい?」
そう問うと香菜は普段私以外には浮かべることの無い満面の笑みで背中に背負っていた籠から何やら草花を取り出す。
「見てください!蕺草に羅勒がこんなにも!」
そう言って籠の中からどんどんこれらの草花を取り出し、私の目の前に差し出す。
薬草に興味があるのは良いことだ、将来役に経つから。
しかしだ、男衆の一人が付いているとはいえ、夢想楼を抜け出し、街に出るのはやはり心配だ。
「草花に興味があるのは良いが、あんまり外にほいほい出るなよ?」
そんな私の忠告に香菜は上辺だけの返事をする。
思わずため息を吐きそうになった時、香菜の籠の中に紫の花があることに気づいた。
「……なっ、香菜!これ鳥兜じゃないかい!?」
私の言葉に香菜は驚くことも無く、そうだと答える。
賢い香菜ならこの花が猛毒だと、危険だと知っている筈だ。
「な、何でこれを……」
恐る恐る問うと、香菜は先程までとは比べものにならない程の笑顔で薬にすると答える。
確かに鳥兜は附子という薬になるが、まだまだ未熟な幼子だ。鳥兜の扱いは分からない。
「こ、これは薬に出来るが、扱いに危険だ!駄目だ!」
私が目を吊り上げて怒ると香菜は怯むことなく続ける。
「えぇー、では毒として使用すれば良いですか?例えば……暗殺とか!」
正直に言おう、この子は将来恐ろしい人間になる。その時私はそう悟った。
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