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君だけの甲子園
「甲子園、中止――?」
仙波(せんば)監督の悲痛な面持ちの発表は、今の言葉が嘘では無い事を物語っていた。普段は優しい癖に野球の事となると、鬼の仙波と呼ばれる程に厳しい監督だ。御年五十九歳、白髪いっぱいの、今まで彼が歩んできた人生の皺がしっかりと刻まれた年齢に相応しい顔は、悲しみに暮れていた。僕は、監督のこんな顔を今まで見た事が無い。
「監督、本当ですか!?」
「今年が最後の夏なのにっ!!」
狭い部室に集まった部員が、思い思いの言葉を口にした。早くも現実を受け止められずに泣いている者もいた。キャプテンの僕は、ただただ、放心した。
約束、したのに。
アイツの・・・・玲児(れいじ)の代わりに、僕がいっぱい投げて、投げて投げて投げまくって、甲子園目指してやるからって。
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