セツナラセン 〜君に触れたい〜

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晴れやかな9月の風が涼しさを運んでくる日曜日。 僕の心は浮足立っていた。 今日は先週から市内の病院に入院している幼馴染のアキに会いに行く。好きな人に会いに行くってだけで昨日の夜からなかなか寝付けなかった。 今日、アキに会えたら聴かせてあげたい曲がある。 それを今、耳に繋いだイヤホンで聞いている。 「元気になりそうな曲だから聴かせてあげたいんだ」 最近、話すようになったハルちゃんにそうお願いしたら、良いよって言われて、曲をスマホに落としてもらった。 ハルちゃんは僕が文化祭で描いた「海」の絵をもとに曲を作ってくれた。お礼を言ったらアキちゃんに元気になってねって伝えてねとニッコリしてくれた。本当にフレンドリーでいい子だって思う。 ♪♪♪ バスは病院のロータリーに着いた。逸る気持ちで面会名簿に名前を書くと、アキの病室のある最上階にエレベーターで向かう。長方形の箱が上へと上がって行くたびに、ドキドキして来る。 ああ、アキに会える。 くりりとした黒目の大きい瞳、ゆるく編み込んでサイドに流した艶かな黒髪、肌は綿雪のように白い。そのぽってりとした唇は雪原に咲く一本の椿の花を想わせた。
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