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「ふむ」私は言った。「今度は本気だと」 「弁護士に、私と離婚する相談をしてるんです」ミズ・クローリィーはハンカチを噛みちぎりそうだった。 「なるほど。それで浮気の証拠を握っておきたい訳ですね。法廷で有利に運べますから」 「身ぐるみ剥いでやろうと思いますの」声が震えている。「それでもまだ、その売女がジョンを捨てないかどうか見ものですわ」 「わかりました。全力を尽くします」 「……それでですね」ミズ・クローリィーが言いにくそうにもじもじしたので、私は待った。こういう時には急かさないのがコツだ。 「実は、こちらへ伺う前に、他の探偵社さんにもご相談を……」  決して珍しいことではない。わが探偵社は残念ながら小規模で有名でもないのだ。まず名の通った大手に依頼して埒が明かず、わが社を紹介されてくるケースは少なくない。 「ちなみに、どちらの探偵社ですか?」  ミズ・クローリィーが口にしたのは、やはり全米にネットワークを持つ大手だった。 「ひょっとして、バート・ペンズラーが担当では?」  私の警察時代の同僚である。ほぼ同じ時期に早期退職して、彼は大手に就職、私は独立自営の道を選んだが、いまでも交流がある。彼が友情から仕事を回してくれたのではないかと思ったのだ。  果たしてミズ・クローリィーは頷いた。 「そうでしたか。ではムダを避けるために、その調査の結果を教えていただけますか?」 「ジョンは量子力学研究所に勤めてますが、木曜はいつも実験で遅くなるんです。ところが調べてみると、そんな実験は行われていませんでした。そこでミスタ・ペンズラーのチームは、木曜の夜、研究所から帰るジョンを尾行しました。確かにどこかに立ち寄って、数時間を過ごしているんですが、どうしてもその場所が特定できないとかで」 「特定できない?」 「最初の時、尾行に勘づかれたそうです。それで毎回違うルートを取るので、まかれてしまうと言ってました」  ペンズラーは決して無能ではない。それがやすやすとまかれるというのも信じがたいが、相手が尾行を悟っていると格段に難しくなるのも事実だ。 「わかりました」私は微笑んだ。「尾行には自信があります。必ずご主人の浮気相手を突き止めてみせましょう。わが社のキャッチフレーズは、『どんな隠し事もお見通し!』ですからね」  そこで初めて、ミズ・クローリィーも微笑んだ。
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