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3.
依頼人を帰して、私はバート・ペンズラーに電話した。
「やあ、たったいまミズ・クローリィーが来たよ」
『そうか。お前の尾行技術で、プレイボーイ物理学者の妻を救ってやってくれ』
「お手上げなのか? お前ともあろう者が」
『悔しいが、五回の尾行のいずれにも失敗してね』
「尾行法はいろいろ試したんだろうな?」
『もちろん。まずは普通に直列式、次はリレー式、それからFBI方式、モサド方式……』
「いずれも失敗か」
『まあ、言い訳がましいが、実は何か変なんだよ』
「と言うと? ミズ・クローリィーはまかれたと言っていたが」
『うん、報告書にはそう書いたんだが……うまく言えないが、とにかく博士のクルマはしっかり見えていた。決して見失ってはいない。ところが、ぐるぐる回っている内に自分がどこにいるのかわからなくなっちまったんだ』
「しかし……カーナビがあるだろう?」
『もちろん。だが、ふと気づくと画面が真っ黒でな。混乱している間に博士のクルマはマンションの地下駐車場に入った。だが、場所がまったくわからない。周りを見ても見覚えがないんだ。待機してると二時間ぐらいして博士は出て来た。そっからまた尾行したんだが、その内、突然知っている場所に出た。博士の家のすぐ近くなんだ』
「ふむ」
『カーナビもいつの間にか復活してた。しかし、そこから記憶を頼りに戻ってみたんだが、いくら走ってもマンションは見つからなかった』
「催眠術でもかけられたのか」
『まさか。第一直接会ってないんだぞ。クルマからクルマへかけるなんて不可能だ』
「日本人はこういう場合、狸に化かされたと言うそうだ」
『ふん、日系人め。じゃあ、お前が捕まえて狸のステーキを奢ってくれ』
バートは乾いた声で笑い、付け加えた。
『後、友だち甲斐に教えてやるが、先生、判で押したように木曜の午後八時に研究所を出る。行き先は必ず東だ。ただ最初の交差点に来ると、直進したり、右折したり、左折したり、さらにその先もめまぐるしくルートを変えるがな』
「東に絞れるだけでもありがたい。助かるよ、バート」
それから少し世間話をして電話を切った。
私はインターフォンを押して、デラにポールを呼ぶよう言った。
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