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翌日、教室で会ったハルは一心不乱にクロッキー帳に向かっていた。声を掛けても返事すらしない。
これ無敵の集中状態だ。
とりあえず美波さんと左右に回って片腕づつハルの腕を止めた。下手な事をすると描いてる途中の絵に影響がある。
「え?」
「え、じゃない。教室移動よ、単位落とすよ」
「ハル、具合悪くない?」
見なさい、お姉さんを心配させちゃって。こんなんで美波さんに告白とか出来るのかあなたは。
「あ…大丈夫」
バツが悪そうに笑うハル。急いで画材をまとめる。
「つい夢中になっちゃった、行こう」
今度は先頭を切って教室を出ていく。私は美波さんと顔を見合わせた。
「本当に大丈夫かしら、せっかく就職が決まったのに」
「まぁ、大丈夫でしょう」
原因はきっとあれだろうから。
「私達が遅刻しちゃう、行きましょう」
私達はハルを追い掛けた。
結局ハルはそれからもしばらくその調子で、日頃明るいハルにしてはなにか変だと思うくらいぼーっとしてたり、考え込んでいたり。
あるいは又、一心不乱に何かを描いていたりと。本当に全然いつものハルじゃない。
なにかおかしいと思いつつも何も言えない私。美波さんも当然ずっと心配している。
そうこうしてるうちに、時期はもう学校の冬休み前日で終業式。明後日は帰省するという時期になった。
「美波、放課後に時間ある?」
朝、学校に来るなり美波さんにそう言うハル。
「今日は明後日のお土産を洸と買いにいくけど」
日持ちのしないお菓子とかを美波さんと阪急百貨店のデパ地下に買いに行くつもりだ。
「その前にちょっとだけお願い。洸、ちょっとだけ美波を借りていい?」
それは良いけど。
「洸、大丈夫?」
「うん」
時間はあるからそれは大丈夫。
「じゃ、放課後で」
ハルは席に戻って行った。
ハル、今日がその日なのかな。
でも万が一、「ごめんなさい」をされたら、明後日の帰省中の車の中が最悪なんですけど。
相変わらず、タイミングの悪い男だ。
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