74人が本棚に入れています
本棚に追加
「今年も年末はお母さんの家にいきたい」
ハル…ラインハルトが泣きそうな顔で私に言う。
「来たらいいじゃない?どうしたのよ」
遠慮とかハルらしく無いわ。確かに夏休みは私の手術があったから誘う訳にはいかなかったけど。
「アルがダメって言うんだ、今年は洸の成人式とかもあって僕は邪魔になるって。そんな暇があったら本国に帰れって」
あらら、アルフォートさんが気を利かしてくれてるのね。
「どうせアメリカは三月の卒業式が終わったら一度帰るから良いのに。洸、僕邪魔になる?僕も洸のお振袖姿楽しみにしてたのに」
「私は別にいいと思うけど」
お母ちゃんもハルには気を使わないし。
「アルは僕がお母さんと一緒にいるのが気に入らないんです。ただのヤキモチです、あれは」
それに関してはなんとも。
「お母ちゃんに電話して聞けば?行って良いかって。お母ちゃんがおいでっていえば、アルフォートさんも文句言えないでしょ」
「そうだよね!今夜電話してみる!」
ハルは名案を貰ったというように喜んでいる。
「私も年末は帰らないと。夏はすっぽかしたから」
美波さんがちょっと面倒臭そうに言う。
「どうしたの?」
その様子がちょっと気になった。
「ん?ちょっとね、親がうるさくて」
それ、前にも聞いたな。親御さんは美波さんに早く東京に帰って来て欲しいのかしら。
「こっちで就職活動したいんだけどそれもいい顔しないし、それも会ってきちんと話さないとね」
それでか。美波さん程の絵の腕前があったら、どこかの美術関係の会社の内定を貰えそうなのに。美波さんはどこも受けてない。
ちなみにハルはコンピューターグラフィック関係の会社を受けまくって結果待ちだ。
「美波は卒業したら東京に帰るの?」
ハルがちょっと不安そう。
「そうして欲しいは前から言われてるけど。私はね…」
「ダメだよ帰っちゃ!大阪にいようよ」
「ハル」
「まだ美波と行きたいところが沢山あるよ。だから…!」
「うん、ありがとうね」
美波さんはそれ以上答えず、荷物を持って立ち上がった。
「ほらハルも洸も教室移動よ、行きましょう」
櫂の言う美波さんの壁はきっとこれだ。彼女はきっと、私達に言いたくない何かがあるんだ。
なにかを言いかけたハルの背を押して、私は美波さんを追い掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!