37人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、シエルにとっては望んでいた日々だ。戦いが好きな彼女は、誰もが驚くほどの魔力とテクニックを持った優秀者。シエルの魔法に勝てる者はグリューン魔法学校にはいない。教師でさえ劣るほどだ。
だからこそ戦いの場にいたいと、シエルは願って入学したのだ。
「もっと戦いたかったな」
しかし今日は卒業式である。十八歳のシエルは学校を卒業して、東のオステ国で働く。
オステ国最大の企業、魔法研究所。戦いとは無縁の場所に就職したのには訳があった。
「先輩っ! シエル先輩!!」
考え事をしながら廊下を歩いていると、どこからか声がして立ち止まる。バタバタと忙しない足音に振り向けば、見慣れた長身が駆けてくる。
――――童顔が近づいてくる。
女の子みたいに可愛い童顔。それにも関わらず、長身。その不釣り合いな姿が何とも滑稽で可笑しい。シエルは思わず噴き出す。
――――恰好いい顔をしていたら惚れたかもしれないのにな。
あくまで可能性。本当に付き合うことはないだろうと苦笑いを浮かべたシエルだ。
最初のコメントを投稿しよう!