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「世界、つまりエーアデに古くからある言い伝えは知っているな?」
急にエストレジャに問われて、シエルは頷くことしか出来ない。何を言い出したのかと不思議に思いながら、シエルは何度も聞かされた言葉を思い浮かべる。
――――――
その者
結ばれた仲間と共に
ここに現れる
その者
召喚幻獣を甦らせ
世界を救う
その者
召喚幻獣と恋に落ち
世界を破滅させる
――――――
言い伝えとは、伝説の大戦の頃に勇者と共に戦った姫巫女が残したとされる予言だ。
しかし、おとぎ話のようなそれを真に受ける者はほとんどいない。
魔王と戦った大戦から三千年経った今、大きな戦いは確認されていない。平和な世の中に予言は戯れ言でしかないのだ。
「それが、なに?」
シエルの目の前にエストレジャは古びた本を置く。乱暴に扱えば壊れてしまいそうなほど弱々しい。
角は擦り切れていたし、紐で丁寧に製本された古いものだ。黒い表紙に何か文字が書かれていたようだが消えていて読めない。
「なによ、これ」
「『勇者の日記』だ」
シエルはガタンと椅子を鳴らして立ち上がる。
「待ってよ。『勇者の日記』が存在していたなんて聞いてない。だいたいどこにあったのよ」
「落ち着け。これは『勇者の日記』のコピー。その一部だ」
「コピー?」
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