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「お父さん!お母さん!はやく!はやく!」
後部座席で娘が目を私たちの真上にいるであろう太陽ぐらいギラギラに輝かせながら急かす。
「ありゃ夜になったらぐっすりだね」助手席に座る妻が微笑みながらそう言う。
俺は少し苦笑いしながらくねくねした山道を駆け上がる。
キャンプ場に車をとめると先に来ていた俺の兄の家族が出迎えてくれた。
簡単に挨拶を交わしみんなでわいわいしながらテントを組み立てた後、各々鬼ごっこをしたり釣りをしたりガールズトークをして遊んだ。
一番星がうっすら空に浮かび始めた頃。
俺は兄と兄の息子さんとで釣り道具を片付けていると。「あのさ。この山ってお化け出るの?」突然兄さんの息子さんがにやにや聞いてきた。
「出るわけ無いでしょー」お化けが嫌いな兄がすかさずそう言う。「そうであって欲しいなー」俺は兄を怖がらせるためにわざとニコニコして言った。
兄の広角が見たこと無いくらいに下がっていた。
「おーい。あんたたちー。」突然の妻の声にみんな体が跳ね上がった。
振り向くと妻は私の娘を背負っていた。
「片付け終わったら3人で山降りて買い物行ってきてー。」
「はあーい」
俺たちは釣り道具を渋々片づけた。
「結構暗くない?買い物行くのやめない?」
助手席に座る兄の声が震えている。確かに空はほとんど夜だ。
「じゃあわかった。兄さんはここでみんなの手伝いしてて。俺とこの子とで買い物行くから。」
俺はそう言うと兄さんの息子が首を縦に振る。兄さんは謝罪の言葉を口にしながら車から下りた。
俺はハンドルを握り直してアクセルを踏み込んだ。
外灯のない道路をひたすら走る。
走り始めはちゃんと兄さんの息子さんと会話していたが、今は車が出す音しか聞こえない。
俺は息子さんと何か会話をしなければと思い、カーブを曲がりながら口を開いた。
しかし、声は出なかった。
車がカーブを曲がり終えた途端、血まみれの髪の長い女が道路の脇に立っていたから。
俺は車を走らせ続けた。何もなかった、何も見えなかった、そう自分に言い聞かせて。
心臓が壊れるくらい動いている。手が震える。
「ちょっと、大丈夫??」
心配している声も聞かずただ走り続けた。
しかし、そんな気持ちは一瞬だった。
爆速で走る途中で白い車が木にぶつかっていたのが見えた。
俺は目を見張った。そして気づいた。
「もう急にどうしちゃったの?爆速で走ったかと思えば急に止まったりして。」
「俺たち戻るよ、怪我してる人がいた。」
と言って、俺は返事を聞かず車をバックさせて来た道を戻る。
確かこの辺りなはず。そう思ってエンジンを切り運転席から降りて大声をだす。
「おおーい!大丈夫ですかー??怪我してるんですよね??助けに来ました!!」
すると、少し近くの木の影からさっきの女の人がよろよろと出てきた。
「車のドア空けておいてくれ!」
そう息子さんに言って俺は女の人の近くに寄った。女の人は額から出血していた。「今から病院に連れて行くので車に乗れますか?」
俺は持っていたハンカチを傷口に当ててから落ち着ついた声で話した。
女の人は弱々しく首を振った。俺は了承と捉え女の人に肩を貸しながら車に乗せて病院に行った。
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