星の夜にホタルと

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 全方位から聞こえるけたたましい蝉の声も、この田舎の住処においてはまるで気にならないから不思議だ。都会の喧騒に普段あんなに嫌悪感を抱いているのに。  私はかつて住んでいた東北の実家の片付けをしていた。五年前に再び東京に出てきてから放置していたのだが、いよいよ手放そうということになり、久しぶりに家の整理に訪れたというわけだ。 「あっ!」  私は広い座敷の片隅にキラリと光るものを見つけた。それはやや赤みがかった小さなビー玉であった。透明とは言えないが、古びた感じはしない。掃除をしているうちにどこかから転がり出たのかもしれない。  ビー玉。そんなもので遊んだのは何年前の頃だろうか。最近ではまったく目にしなくなった。しばらく光るビー玉を見つめていた私は、だんだんと懐かしい子供の頃の記憶が蘇ってきた…… ◇  都会の夏は暑い。うだるような太陽の強い日差しに連日ぐったりきていたが、今日ばかりはそうも言っていられない。なにせお別れの日だからだ。  転校が決まったのは急だった。五年生の一学期もあと少しで終わろうかという七月に入ってすぐに、父親から田舎の学校に転校することを告げられた。それから学校のみんなにお知らせしたりして、あっという間に夏休みに入り、ついに引っ越しの日を迎えた。  荷物は午前中のうちに業者に運び出してもらっていたので、今は身一つで両親とともに東京駅にいる。小学校のクラスメイトのうち、特に仲の良かった三人が見送りに来てくれた。ユウキ、カオル、アキラ。みんなと別れるのは寂しい。 「ボクはみんなのこと、忘れないよ」  新幹線の出発直前まで、最後のお別れをしていたが、いよいよ出発となり、新幹線の窓越しに手を振る。みんな、元気でね。三人で大丈夫かな。ちょっと心配だけど。
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