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救急車の音、踏切の音、
コンビニの入店音。
全てが音符に変換される。
この世は音に溢れているが、
心地の良いものばかりではない。
颯太は絶対音感を持っている。
100人に3人という割合は
希少と捉えるべきなのか分からない。
何かに生かされている訳でもなく、
むしろ人より音に敏感であるがゆえ、
イライラすることの方が多い。
中には耳栓をしなくては
生活できない人もいるらしい。
才能や長所だと羨ましがられるが、
颯太はある種の病気だと思っている。
颯太の生まれ育った秋田の実家は、
農家を営んでいる。
一緒に暮らす祖父母は
腰こそ曲がっているものの、
毎日早朝から畑仕事をこなし、
若い男でも苦労する山積みの収穫物を
いとも簡単に持ち上げてしまう。
今の時期はなす、きゅうり、トマトと
夏野菜が続々と収穫を迎えるため、
一年の中でも繁忙期にあたる。
颯太も小さい頃から強制的に
畑仕事の手伝いをさせられてきたが、
「何が楽しくてこんなことを
しているのだろう」と
いつも疑問に思っていた。
幸い「無理に継がなくていい」と
両親も言ってくれたため、
大学進学を決めた。
埼玉の地に越してきて2年。
人の多さ、建物の高さ、夜の明るさ。
どれも慣れるのに時間がかかった。
この様子だと東京なんて
一生行けない気がしてしまう。
夜になっても
酔っ払いの話し声や近所の生活音、
路上を走るバイクの音が
鳴り止むことはなく、
そんな時は田舎の静寂が恋しくなる。
休日は必要最低限の外出しか
してこなかったが、
大学の夏休みは否応なく長い。
それゆえ電車を乗り継ぎ、
ひとり気ままに県内散策を始めた。
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