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ちゃらん。
「颯太くん、おかえり。」
「ただいま。」
昨晩の何とも言えない気まずさが
残っているかと心配していたが、
凛子がいつも通りだったので
颯太も何食わぬ顔で返した。
違っていたのはお互いまともに
目線を合わせられないことだ。
「今日の内容は颯太くんが決めて。」
「え、どういうこと。」
レッスン内容は講師である凛子が
毎回提示していたので、
こんな展開は初めてだった。
「ほら、昨日は私の我儘に
付き合わせちゃったから、
今日は颯太くんのやりたいことに
付き合ってあげてもいいかなって。」
私、優しいから。と
あくまでも上から目線を貫いている。
レッスンと言いつつ、
やはり凛子ちゃんの
やりたいことだったのか。
と内心思ったが、
さらっと自白してしまったことに
本人は気付いていないようなので、
そっとしておく。
これも「女の子の引き立て方」の回で
学んだことだ。
「あ、そうだ。
凛子ちゃんって家の外に出れるの。」
「風鈴持って行けば問題ないよ。
私の姿は他の人には見えないし。
もしかしておでかけするの。」
おでかけがよっぽど嬉しいのか、
勢いよく尻尾を振る犬のように
笑顔で詰め寄ってくる。
ということで、
颯太の選択肢は頷くことしか
残されていなかったのである。
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