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蛍を堪能して、凛子の鼻歌を聞きながら
家路を辿っていた。
正確な風鈴の音色とは異なり、
さっきから音を外しまくっていて
どちらかと言うと音痴なのだが、
清々しいくらいに思いっきり歌っている。
僕以外に聞こえていなくてよかった、と
思ってしまう程だ。
「颯太先輩。」
その声に反応して、凛子の鼻歌も止まる。
声の主はバイト先の後輩、
琴音だった。
「ひとりでお散歩ですか。」
「あぁ、まぁそんな感じ。」
琴音には凛子の存在は見えていない。
だが、颯太は凛子の存在を
無視することはできない。
隣で鋭い監視の目を光らせているからだ。
失言をしようものなら、
あとでどんな仕打ちをされるか分からない。
だから凛子の逆鱗に触れぬよう、
慎重に発言しなくてはならない。
「颯太先輩って最近変わりましたよね。
何か男らしくなったというか。」
「何だよ、今までは女々しかったって
言いたいのか。」
「怒らないで下さいよ、
今までももちろん魅力的でした。
でも、他の子達も言ってたんですよ。」
私のおかげ、と言いたげに
ドヤ顔の凛子が肘で合図を送ってくる。
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