喪女の夏は丑三つ時

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「あれ?シフト間違えたかな?」  突然、背後から男の人っぽい声。  誰もいないと思った場所からの不意打ちで、私の体はびくんっ、と垂直に三十センチメートルくらい浮いた。 「あわ、あわわわわ……」  がくがく震えながら振り返るとそこには、私と同じかちょっと上くらいの男子が立っていた。  服装は夏らしくとてもラフ、というかアロハシャツ。足もあるし血色も良い。霊ではなさそうだ。 「あ、あな、あなたは……?」  人見知りな上にこんな場所で会ってしまったせいで、どもりまくってしまう。  でもそんな私のことを見て「ぷっ」と笑い、見知らぬ男子はにっこりと笑ってくれた。 「もしかして、バイトの人じゃないですね?」 「……は?」  バイト?  一体何の話をしているの? 「僕はバイトでこの心霊スポットのスタッフをしているんです」 「は、はぁ」  ラフ男子曰く、これは新手のバイトらしい。  名ばかりの心霊スポットにシフト制で入ることで、訪れた人に恐怖を与える。そうすることで怖い思いをしたい人達の需要を満たし、心霊スポットは風化を防ぐというWin-Winの関係。道理で霊の類いがいないのに有名な訳だ。まったく、オカルト好きの人達が考えることは意味不明だ。  ん?ということは怖がった上で街を荒らしているのかあん畜生達は。今度は警察呼んでやろうか。  「深夜手当も出るから結構いいんですよ」 「そりゃこんな時間にこんなところですもんね……」  むしろ手当なしでやれなんて条件だったら幽霊よりもよっぽど怖いブラック企業だ。  ラフ男子はそれからも色々話しかけてくれた。好きなことは何かとか、学校のこととか。当たり障りのないことばかりだけど、それでもコミュ障な私はおっかなびっくり答えてた。それに男子ウケの良さそうな回答なんて全然出来ないし、改めて自分の女子力の低さを痛感した。    でも、長いこと話しているうちに少しだけ慣れてきて、私も一つだけ質問することができた。 「あ、あの……あなたは、何でこのバイトを……?」  質問してから「しまった」、と思った。  バイトをする理由なんて大概小遣い稼ぎか社会経験を積みたいとかそんなところだ。実際手当が良いって言っていたし。会話が全然拡がらないつまらない話題だ、なんて大バカな私。……と、思ったのだけれども。 「そうだな、やっぱり喜んでくれる人がいるからかな」  とっても嬉しそうな顔で答えてくれた。 「僕、小さい頃はいつも隅っこに隠れていてばかりで友達もいなくて、周りからいるかいないか分からない子って言われてた。でもこのバイトで怖がってくれる人を見たり心霊スポットの管理人が有名にしてくれてありがとうって言ってくれたり。そんな風に僕なんかでも力になれるって感じることができるから」  キラキラにした瞳で語ってくれた。  私みたいに鬱屈した気持ちを人様にぶつけようとするのではなくて、世のため人のために昇華させている。  その姿は眩しすぎた。
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