喪女の夏は丑三つ時

1/5
前へ
/5ページ
次へ
 (せみ)の鳴き声が少なくなった。  虫達の暑くて熱い恋の季節もそろそろ終わりを告げる頃なのだろう。  今年生まれたカップルはどれくらいなのだろうか。虫の恋事情なんてどうでもいいけれど。  それよりも。  私の方が大問題だ。  高校二年生の夏という、一番自由に恋愛できるであろう大切な時間を殆ど部屋の中で過ごしてしまった。しかも積みっぱなしにしていた乙女ゲームを消化するという、何の生産性もないことに時間を費やして。  でも推しキャラとの好感度をカンストできたし、なんなら全ルートクリアしたし。こんな偉業を成し遂げられるのなんて私くらいだ。  いや、それってただ私が夏休みに大した予定のない、陰日向に咲く雑草以下のオタク……喪女だからってだけじゃん。 「あああぁぁあああぁぁぁぁぁああああっ!」  そう意識したら急に死にたくなってきた。  どうしようもないよ、高校デビューを盛大に失敗した時点で私の人生は詰んでいたんだから。  それでも去年は頑張ったよ?なんとかして陽気なグループに混じろうとして大分迷走したけど、努力だけはしたよ?結果的に余計酷くこじらせるハメになったけど。  どうするのよ。  来年は三年生、進路決めなきゃいけないし受験勉強やら何やらで遊んでいる余裕すらなさそうだ。どうせ部屋にこもりきりだったらせめてスキルアップのためになることをしておけば良かった。  夏休み終了まであと三日。  せめて今後の人生で誇れるような、アウトドアで大騒ぎな思い出が欲しい。  どうにかして、思い出作りをしてみせる。  そうしないときっと、絶対、必ず後悔する。  そんな気がした。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加