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夏休みに入って、二、三日がすぎたころだった。僕は自室で白紙の日記帳をにらみながら、うんうんと唸っていた。
「ちょっとうるさいわよ! さっきから」
僕の声がよほど大きかったらしい。ママが怒鳴りこんできた。
ママはキレイな顔だけど、怒ると怖い。目が吊りあがり、相手に有無を言わせない迫力がある。
でも、息子である僕にとって、それは日常の一部にすぎない。慣れっこな僕は抗議の声をあげる。
「だって、日記のネタがないんだもん」
「日記? ああ、あのふざけた宿題のことね。そんなのでっち上げればいいのよ」
ママは、夏休みに課される日記の宿題が大嫌いだった。
子供にひと夏の思い出を強引に作らせようとする教育団体の思惑が垣間見えて嫌なのよ、とよく文句をつけている。
事実、子供に悲しい思いをさせないよう努力するのは親なのだから、親からしてみればゆっくりすごしたい休日を台無しにされるのは正直たまったものじゃないだろう。
「僕の想像力は豊かじゃないよ」
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