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キョウコさんは時々絵をかいて、私にかまって、それからまた絵を描く。そういう生活を送っていて、家に誰かが訪ねてくることはない。
晴れているときも、曇りの日も、変わらない生活の中で、時々私にキスをした。彼女が私に恋愛感情を持っているとは思えなかったけれど、嫌われているわけではないだろう。理由を尋ねることは怖くて、ただ照れるしかない私を見ているのは少し面白かったのかもしれない。
四日目はひどい雨だった。
「いやねえ、今日はおうちにいなさいね」
「こんな雨の中出ていくと思いますか?」
「スミちゃんって、好奇心旺盛じゃない。ちょっと海とか見に行きそう」
荒れている海に興味がないと言えば嘘になるけれど、それが危ない行為だということくらい私にだってわかる。
少し不貞腐れていると、隣に座ったキョウコさんが立ち上がった。
「まあ、あたしは出掛けるんだけど」
「え、危ないですよ」
「だからスミちゃんは家にいてちょうだい。そんなに遅くはならないわ。今日の夜はパスタを食べましょう、ね?」
「お気を付けて」
「あ、本棚の本、勝手に読んでていいわよ。退屈でしょう?」
いつものように軽くキスをして、キョウコさんが部屋を出ていく。
島に来て一人になるのは初めてだった。最初は民宿に泊まる予定だったのだから、七日間一人で過ごす予定だったのだけれどそうならなくてよかったと今なら思える
本棚には、様々なジャンルの本が並んでいた。作家ごとに整理されているわけではなくて、なんの規則性もなく並んでいる。
手に取ったのはたまたまだった。
なんとなく母の寝室で昔見た覚えがあったから。別にその作家が好きだったわけではないし、内容を知っていたわけでもない。ソファーに戻ってパラパラとめくると、間からしおりのようなものが落ちた。
読んでる途中だったとしたら申し訳ない。どこのページに入っていたのかわからなくて、戻しようがない。
そう思って拾い上げた紙は、しおりではなく写真だった。
「え……」
写真に写っているのは二人の女性。夕日の前に立っていて、逆光になっているけれど、二人とも綺麗な人だとわかる。猫のような瞳は今の面影があった。
ツーショット写真の端に、見慣れた字で終末と一言書いてある。丸みがあって、それでいて大人びた特徴的な字だ。子供の頃は持ち物の名前を見た先生に、可愛い字だねと言われるのが誇らしかった。
「お母さん……なの……?」
じっと目を凝らしてみると、母の姿は今のキョウコさんそっくりだった。
違う、逆だ。
キョウコさんが、母を追いかけているのだ。
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