母の故郷にはネコがいる

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 ニャアと、不機嫌そうに鳴いたのはきっと不安だからだ。 「帰ってほしくないわね」 「知ってます」  私の首に顔をうずめるキョウコさんを引きはがす。  ここで帰らないことは簡単だ。でも私はまだ学生で、やらなくてはいけないことが山ほどある。全部投げ出してしまってもいいのかもしれないけれど、それはきっと私たちの将来に差し支えるだろう。 「逃避行は、私がしっかり終わらせます」 「いつまでも逃げていちゃだめだものねえ」 「ちゃんといろんなことに向き合って、それから……」  キョウコさんを迎えに来ます。  そう言ったつもりなのに、声はくぐもって彼女の中に吸い込まれた。 「その続きは、気が変わらなかったら聞かせてちょうだい」  最初の時とはずいぶん感じ方の違うキスだった。私の奥に何も見ていない、私のためだけのもの。 「さあ、そろそろ夜が明けるわ」  にっこり笑って私に帰りを促したキョウコさんは、あまり母に似ていなかった。
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