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「あ、やばい」
間違って電話をかけてしまった。あわてて電話を切る。向こうは電話に気が付いただろうか? すぐに電話を切ってしまったけれど、ちゃんと電話で事情を伝えた方がよかったかな。向こうは今、スマホを眺めながら、突然かかってきて、突然切れてしまった電話に首をかしげているかもしれない。ああ、嫌だ、こういうの本当に嫌だな。すぐさまトークルームを開き、「ごめんね! 間違ってかけちゃった」とメッセージを送る。彼女に連絡をしたのはいつぶりだろう。高校を卒業して二年、彼女とは一度も会っていない。というか、今も連絡をとったり、一緒に遊びに行ったりするのは、結局ソフトテニス部で一緒だった子たちだけだ。高校のときはもっと色んな人と話して、遊んでいたのにな。大学にはクラスがないから、深い関係の友達があんまり出来ないというか、なんだか、寂しい。サークルも、家が遠いからなあ、飲み会とか遅くまであったらやだなあ、とか言って入るのをやめてしまった。引っ込み思案で気にしいだから、二年生になってからサークルに入って「私実は二年生なんですよー」とか言って馴染んでいける勇気もない。友達といえば最初の履修説明会で知り合った二人だけだ。いい子たちだけど、消極的というか、あんまり冒険しない。だから、正直、一緒にいてもあんまりおもしろくない。二人といるとなんだか挑戦する気がなくなってしまう。そんな流されがちな自分が、情けなくて嫌いだ。ああ、勉強ばっかり、楽しくない。高校生に戻りたいな。そんなことをぼんやり考えていると、メッセージが届いた。ピコン! と通知音。さっきまでだらだら動画を見ていたから音量を大きくしたままだった。
「びっくりした。全然いいよ! 気にしないで」
さっきの子から返信がきた。高校二年生のとき同じクラスで、まあまあ仲が良かった。部活には入っていなかったと思う。背が高くて、髪型はベリーショート。ボーイッシュでおしゃれな風貌。有名人だったから、私は一年生の時から彼女のことを知っていた。入学式の日、トイレで彼女を見かけて驚いたのを覚えている。男の子だと思ったから……でも、名前は愛ちゃん。女の子らしくてかわいい名前だ。どこかミステリアスで、どう表現したらいいんだろう、とにかく自分を持っていて、かっこいい。二年生になって話してみると、ユーモアがあってお茶目さんだとわかった。そのギャップに私はすっかり夢中になってしまって、仲良くしてもらっていた。名前は愛ちゃんだけど、名字が「本田」だから、あだ名はほんちゃん。ほんちゃんみたいな、自分の好きがはっきりしている子は、今も充実した生活を送っているのかな。また会いたいな……最近あんまり友達と遊んでいないし。そう思い立って、彼女にメッセージを送った。
「よかった笑 ありがとう。今度よかったら遊びに行こう!」
すぐさま既読がついて、どきっとした。ほんちゃんは、他の女の子みたいに、返信はこないのにSNSを更新しまくっているとか、そういうのが無いから、付き合っていて気持ちがいい。
「もちろん! 行こう。今週は土曜も日曜もあいてるよ」
今週なら、私も土日両方予定がない。それなら、土曜日にしたい。そう思った。すぐほんちゃんに会いたいと、心から思った。「やった、ありがとう! じゃあ土曜日にしよう」「わかった。駅の改札に十一時集合でどう?」「完璧! 楽しみ、ありがとう」「私も」とんとん拍子で予定が決まる。ドキドキして、返信するたびちょっと画面から目を逸らしてしまう。けれど、楽しい。「Good night」と書いた可愛いスタンプを送って、スマホを閉じる。
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