神の向こう

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 「神にはなりたくない」 私を見詰めながら君は言う。 「傾倒は破滅のようなものを産む。科学も心も宗教もそう」 凪いだ花々に囲まれながら、静謐に満ちた夕陽の沈みを眺め行く、私の横でそう吐いた。それが何年前のことなのかはあやふやだが、とにかくその時の夢を私は見ているな、と思った。君は私を見詰めながら続ける。 「だから僕は神になりたくない。たとえそれが別の傾倒を孕んでもね」 「別の傾倒はいいのか……」と私は言ってみた。 「いいんだよ」と即答。 「最悪なのは、傾倒したまま留まること。それが永遠であり正義になること。その停滞を壊すための新しい狂気がきっと必要になるんだ」と君は言った。私は納得し、2人で黙って夕陽を眺め続けた。長い沈黙だった気がするが、私には分からない。真っ直ぐに張っていた時間の糸は緩み絡み、その長短の意味を失わせていく。 そのうちに私は立ち上がった。君は座り続けた。私は帰るために歩みだした。が、すべての知覚を脱ぎ去ったように花も日も彼も私もぼんやりとし境界を失いつつあった。君が何かを発した気がする。が、それは言葉として私の鼓膜を震えさせることはなかった。そうして私は現世に還る。
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