これも一つの生誕なり

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 西田優斗(にしだゆうと)は自殺した。  遺書はない。いじめも家庭事情もあったけれど、そんなものはどうでもよかった。  死後の世界は信じてなかった。ただひたすらなにもない世界へと旅立ちたかったのだ。  「諸君、あの世が最も忙しくなるのはいつだ!」  『お盆!』  「現世が最も騒がしくなるのは!?」  『お盆!』  あの世は熱気に包まれていた。  頭に白い三角布を巻いた老若男女数百人、隊列組んで集まって、手には刀や弓、木の棒から鍋蓋まで。跨っているのは割り箸の足が生えた茄子や胡瓜。服装は定番の白装束から道着やスーツ、一昔前のレディースと様々。  一番前で叫んでいる男など、戦国時代劇でしか見たこともないような甲冑を纏っている。  「天国地獄現世と三界全てで祭りが始まる――その名はっ」  『お盆、お盆、お盆!』  「現世では生者が浮かれ、亡者は手ぐすね引いて待ち構えている。  我等先祖様の霊団隊、これより生者を守るため現世に舞い戻らん!」  『いざ行かん、お盆!!』  はて、死後の世界とは?
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