これも一つの生誕なり

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 死後の世界は存在した。ゆえに優斗は絶望する。優斗の願いは消えてなくなることだ。死んだあとも世界が続くなんて冗談じゃない。この世に救いはない。  確かにあの世は痛みも苦しみもない。それを感じる肉体がないからだ。 だがそんな世界ですら、優斗は存在していたくなかった。肉体の痛みがなくとも生前の記憶が死後も優斗を苛んだ。  優斗はいじめられっ子だった。机にゴミ箱をひっくり返され、教科書を破られ、陰口をたたかれ、教師は知らんふり。  優斗は両親と妹の四人家族だ。母親は束縛を嫌って一年の半年ほどを実家に飛ぶ。世間体を気にする父親はそんな彼女への不満を優斗へ向ける。それでも母の代わりに家事全般頑張れば、妹はさも当たり前というようになにも手伝わないし、命令する。  いじめと孤独。耐えられたのは長男だったからだろう。そこは父に似たのだ。世間が求める兄という責任の呪い。長男だから我慢しないと、しっかりしないと…と。  積み重ねてきたそれが壊れたのは、高校卒業が近づいたときだ。卒業と同時に一人暮らしをするつもりだった。  母は嗤った「お兄ちゃんにそんなの無理よ」  父は殴った「そんな我儘が許されると思うのか」  妹は嘆いた「じゃあ誰が家のことしてくれるの」  未成年が家を借りるには保護者の許可がいる。あと二年だって待ちたくなかった。家を出て誰のためでもない、自分のための日常が欲しかった。  そんな時、携帯に届いたSNSのURL。卒業前にいじめっこたちから最後のサプライズだったのだろう。いわゆる学校裏サイトと呼ばれるそこには、つらつらと三年間の優斗に対する陰口が並んでいた。「とろい」「死んで」「臭い」。  自分が存在することに、希望が失せた。消えればいいのだと悟った。そうすれば、優斗は自分を苛む全てから逃げ出せて、優斗を厭う者たちも解放されるだろう。 だから夜中に家を抜け出して、近所の公園にある遊具で首を吊ったのだ。
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