第二章 獅乃の異変

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「構いませんよ」  言葉を切ってから佐藤の耳に顔を近づけて囁く。 「今まで言えなかったことも、ここで吐き出していいんですよ。瑠菜さんが落ち着くまで、ここにいますから」  佐藤の瞳からさらに涙が溢れ出し、頬を伝う。右手で目を覆い、涙声になりながら、喋り出した。 「なんで勝手に死んじゃうのよ! まだあなたと一緒にいたかったのに。あんな、満足そうな顔して……! まるで、私を守れてよかったみたいな……!」  俯いて、子どものように泣き出した佐藤を優しく抱き寄せ、背中を撫でる。 「こんな形で壊れるなんて……! 今度こそ、幸せになれるんじゃないかって思えたのに!」  滝坂の腕を左手でつかみ、彼女は大きく息を吸い込んでから、言葉を続けた。 「なにが〝大好きだ〟よ! そんな素振り一度も見せなかったくせに! どうしてくれんの! あなたに会いたくて仕方ないじゃない! あの言葉が本当かどうか聞きたいのに、できないじゃない! 最後の最後で言うな! そんなこと言うなら、なにがなんでも生き抜きなさいよ!」  寄り添う滝坂の頬にも涙が伝った。  目を潤ませながらも、滝坂は笑ってみせた。 「そういう男もいるんだな」  獅乃は溜息混じりに言い、捜査資料を眺める。 「津田が首を刺されたと彼女は言っていたけど、逆光でよく見えなかったのか、混乱していてそう見たのかもしれないわ」 「傷を見る限り、刺されたというより、切りつけられたといった方が正しい」 「そうね。じゃ、永井の自宅にいくのね?」  いつの間にか涙を拭った滝坂は、ニヤリと笑った。  応じるように、獅乃は口端を吊り上げて(わら)った。
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