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「明日、佐藤さんが入院してる病院にいく」
移動中の車内で滝坂が告げた。
「俺の方でも探ってみる」
「絶対に、犯人を捕まえるんだから」
――意外と熱いのか、お前も。
強い決意とともに口にした彼女の言葉を聞きながら、獅乃は内心で驚いていた。
滝坂は熱くなりすぎる獅乃のストッパーで、事件に対して平等に向き合っているように見えた。しかし、彼女なりの思い入れがあるのかもしれない。
そんなことを思う獅乃だった。
獅乃が聞き込みを終えて、捜査一課に顔を出すと、デスクに誰かが座っていることに気づいて顔をしかめる。
「ここでなに油売ってんだ」
そこにはつま先で床を蹴り、椅子を回し続ける瀬奈の姿があった。
「遅い! 待ちくたびれた~」
そう言って、瀬奈は机に突っ伏した。
近くまでいき鞄を置くと、溜息を吐いて腕を組んだ。
「いつからいたんだよ」
「午前九時前」
そのままの体勢で、くぐもった声で応じる。
「徹夜明けで顔を出すな。一日中、こんなところにいるんじゃねぇよ」
「なんでも分かるんだね~」
瀬奈は、腕の上に顎を乗せて、敵わないや、と言いたげに笑ってみせる。
「なにしにきた」
「ただ、顔見たくてきたんだけど、代わりに渡してくれって頼まれちゃってさ」
白衣のポケットから引っ張り出した四つ折りの紙を、獅乃に渡す。
仏頂面で目を通していた彼の表情に驚愕の色が浮かぶ。
滝坂に電話をしようとスマートフォンを取り出すが、佐藤と面会中ということを思い出して止めた。
「じゃあ、あたしはこれで」
「ああ。少しは休めよ」
「それはお互い様でしょうに」
瀬奈はその場を去った。
その一言に、獅乃はふっと笑った。
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