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それから数時間後、滝坂が捜査一課に顔を出した。
「聞いてきたわよ」
デスクにバッグを置いて、滝坂が言った。
「ほらよ」
獅乃はコーヒーの入ったマグカップを二つ持ってきて、赤いマグカップの方を滝坂のデスクに置いた。獅乃のものは黒だ。
「ありがと」
バッグの中から手帳を取り出しながら、礼を言った。
「これを見てくれ」
マグカップを片手に、一枚のプリントを見せる。
「なにこれ?」
それは凶器から検出された指紋の鑑定結果だった。
「どうやら、前科のある奴だった」
「なんとなく予想はしていたけど、十八に窃盗ね~。永井充。誰よ?」
「津田と同じ勤務先の男だ」
獅乃は言いながら机に広げてある資料のうちのひとつを引っ張り出し、滝坂にも見えるように置いた。
「ホントだ」
資料には永井に関する情報が書かれていた。
「同い年で、働き始めたのが永井の方が早い。といっても、一週間くらいだがな」
コーヒーを一口飲んで、獅乃は話を進める。
「職場仲間に話を聞いたところ、津田の勤務態度は真面目で、職場での評価もよかった。しかし、永井は津田の文句を言っていたようだ。ま、津田はやり過ごしていたようだが」
「それだけで、あんなに酷いことできるの?」
マグカップを両手で持った滝坂が、首を傾げた。
「永井は人を見下したような態度を取るものだから、職場に馴染めなかったようだ。すんなり職場と仕事に慣れる彼をよく思っていなかった。お前がもしその立場だったら、どうする?」
獅乃は滝坂をちらりと見た。
「私?」
きょとんとした表情を浮かべた彼女だったが、しばらく考えてから答えた。
「……私だったら、その人のなにが気に入らないかを考えるかな。それで、自分の態度や他人との接し方が悪いということなら、少しずつ、直す努力をする」
「そうだな。だが、永井は違った。仕事がうまくいかないと、すべて津田のせいにしたようだ」
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