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滝坂はコーヒーを二口飲んで、最低だと言わんばかりに表情を歪めて、溜息を吐いた。
「その程度の嫌がらせに津田は動じなかった。それに苛立ったんだろう、永井の行動はエスカレートしていった。最初はちょっかいを出す程度だったが、仕事の出来がよく、自分よりも高い給料をもらっていることを踏んで、何度か店で奢らせたり、彼の家に強引に上がり込んで、本人の前で平気で文句を言うこともあったそうだ。
……おい、そんな顔するな。俺だってこんなこと言いたくはない」
言葉を呑み込んだ獅乃は、
――そんな男、絶対に嫌。
と言わんばかりに、頬を引き攣らせている滝坂を睨んだ。
「お前の気持ちは分からんでもないが。殺害の動機は嫉妬かもしれない」
「ねぇ、こうも考えられない? 憧れてはいたけれど、素直になれなかったとか」
カップを置いて身を乗り出してきた滝坂に、獅乃は冷たい視線を向ける。
「なんだよ、その……」
言うのも嫌なのか、獅乃は苛立ちながらマグカップを置いて頭を掻いた。
「恋愛でありそうな、好きだけど、ときにはそれが憎しみに変わるってこと?」
言いにくいことをサラッと口にする滝坂を不思議に思いながらも、不機嫌そうな表情のままうなずいた。
「今のところは、津田への嫉妬ということにしておきましょう。それで、佐藤さんのことについてだけど」
滝坂はそのときの光景を思い出すかのように遠い目をした。
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