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滝坂はベッドの手前にあるパイプ椅子に腰掛け、佐藤をまっすぐに見ながら、口を開いた。
「事件当時の状況について、お聞かせください」
「構いませんよ。でも、驚きました」
力のない笑みを浮かべた彼女に、滝坂は首を傾げる。
「なにに、ですか?」
「まるで図っていたようなタイミングで、いらっしゃったものですから」
その言葉を受けた滝坂は、柔らかな笑みを浮かべる。
「頃合いかと思っただけですよ」
「そうですか。
あの日は、久しぶりに悟志……いえ、津田と会う約束をしていたんです」
遠い目をしてそう切り出した。
滝坂は目で先を促す。
「午後五時くらいに、彼の家にいきました。管理人さんとは幾度か顔を合わせていましたから、通りすぎてもなにも言われませんでした。部屋の前でドアホンを鳴らしても応答がなかったので、預かっていた合鍵を使いました」
「なぜ、合鍵を持っていたのですか?」
宙を見ていた佐藤の視線が、滝坂に向けられる。
「バイトで徹夜明けになることもあったようです。それに、私がきたことに気づかず、待たせてしまうのが申し訳ないから。彼はそう言っていたんです」
そのときの光景を思い出したのか、照れたように笑ってみせた。
滝坂は彼女の表情から、津田への想いを読み取り、ふわりと笑みを浮かべた。
そんな彼女の笑みに影が差す。
「ドアを少し開けた瞬間、くるな! という怒鳴り声が聞こえました。彼の声だと気づいて、なにかあったのかもしれないと思って、玄関に入りました。ですが……」
佐藤は声の震えを抑えながら話していたが、顔を伏せる。口を閉ざし、唇を噛む。
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