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第三章 知られざる過去が明るみに
聞き込みのため、獅乃は車を走らせていた。助手席には滝坂がバッグを膝にのせ、資料に書かれた目的地の地図を眺めている。
聞き込みというのは表向きで、裏向きは自宅周辺の地理を知るためだと理解しているのは獅乃だけだ。
獅乃は仏頂面で運転をしているので、なにを考えているのかは分からない。
信号待ちをしていると、右折すれば目的地までは道なりだと思っていた滝坂だったが、獅乃はハンドルを左に切ってしまった。
「ちょっと、どこいく気!?」
ギョッとする滝坂にお構いなしの獅乃は、目についたパーキングエリアに車を停める。
シートベルトを外すと、右ポケットから茎わかめとシルバーのジッポライターを取り出す。
慣れた手つきで袋を破いて、茎わかめをつまみながら、右手でジッポライターのふたを開け閉めする。
――またいつものが始まった。
滝坂はカシャカシャという音を聞きつつ、理由を問うため、口を開こうとしたが、獅乃の言葉に遮られた。
「俺はまた……死なせてしまった」
そう呟いた瞬間、今回の事件で亡くなった若い男の遺体を鮮明に思い出すのと同時に、忌まわしい記憶がよみがえってきた。
知らず知らずのうちに歯を食い縛った。
獅乃は自身が先ほどまでいた場所すらも忘れていた。
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