第三章 知られざる過去が明るみに

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 視線に気づいた獅乃は、今にも泣きそうな滝坂を見て、ゆるりと首を振った。  気にするなと言いたいのだろう。けれど、そう簡単にはうなずけない。とても遣る瀬無い表情を浮かべていたのだから。  ――そんな顔すんじゃないわよ。  自分が疲れ果てている。それすら気づけなくなってしまったこの男に。疲れ果てているのにもかかわらず、それでも仕事を優先させるこの男に。  そう言いたかった。けれど、本心とは別のことを口にしていた。 「獅乃」 「なんだ?」 「素直になることは、あなたが思うほど、悪いことじゃないわ」  滝坂はできるだけ軽い口調になるよう、意識しながら言った。 「そういうもんか?」  嫌な思いを振り払うように首を振った獅乃は、不機嫌そうな顔をして頭を掻く。 「少なくとも私はそう思ってる」  滝坂はそう断言した。 「聞き込みにいくか」  そう言う獅乃のスマートフォンが震える。  スマートフォンを取り出して確認すると一通のメールが届いていた。  その文面を読み進めていくうちに、獅乃の横顔から血の気が失せていく。 「……お前のスマートフォン、録音できるか?」  低い声を聞いた滝坂は、なにかあったのだろうと察し、努めて静かな声で言った。 「できるわよ」 「じゃ、準備してくれ。説明は後にさせてもらうぞ」 「準備できた」  コクンとうなずき、スマートフォンを膝の上に横向きに置いた後、滝坂が言った。 「合図するから、そのタイミングで録音開始な」  滝坂がうなずいたのを確認してから、獅乃はスピーカーに切り替えて、電話をかける。  応答音が聞こえるとすぐに、空いた手で指を鳴らした。  録音が始まったことに、ひとまず第一段階は突破したと安堵している彼の耳に、声が聞こえてくる。  用意していた質問をぶつけた。 「穣か。どういうことだ?」 『もうバラしてもいいかなって思ってさ』  穰は普段通りの軽い口調で言いのける。 「……具体的に。俺の予想が外れていてはダメだろう?」  獅乃はできれば認めたくないと思っていたが、そういうわけにもいかないようだ。  内心は穏やかではないが、平然を装って、静かな声で告げた。 『だな。じゃ、ちょっと長話になるけど、始めっか』  相変わらずの口調で、穣は自らの秘密を語り始めた。
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