57人が本棚に入れています
本棚に追加
「子供って、素直だわ。でも、あの子と私、なにが違うっていうの?」
先ほどの明るい声はどこへいったのか、低く吐き捨てる彼女に、穣はただならぬ恐怖を感じた。
「誰もかれも、口を開けば、あの子のことばっかり! なんでいちいち比べられんのよ!」
怒りをあらわにして言い切ると、机をバンッと叩いて立ち上がる。その拍子に椅子がガタンッと大きな音を立てて倒れた。そんなことは気にもせず、キッチンに向かう。
「なんで、なんでよ。誰も、私になんか、興味ないんじゃない! あの子さえ、いなければ……」
ただ固まって動けなくなっている穣をよそに、包丁を取り出す。
「消しちゃいましょうか」
そう言って、笑いながら、穣に近づいてくる。
――僕じゃない!
とは言えず、穣は頭が真っ白になった状態で、リビングから逃げ出した。
――逃げなきゃ、逃げなきゃ。
どこへいくかも分からないまま、階段を駆け上がり、目についたドアを開ける。階段を上ってくる足音が聞こえたので、一番近くのクローゼットに隠れ、扉の隙間から様子を窺う。
「きりゅうくん、今度はちづるの部屋であそぼ~!」
入ってきたのが千鶴と、見覚えのある男子、鬼柳であったことに、一気に緊張の糸が解れる。思わず、そこから出ようとしてしまったので、慌てて元の体勢に戻る。
「う、うん」
鬼柳はとても緊張しているように見えた。
「なにしようかな~?」
言いながら、ベッドの下にあるおもちゃ箱を引っ張り出して漁る千鶴だったが、それを見ていた鬼柳が、ドアの開く音で振り返る。
つられて、穣も視線を向ける。
それを見た瞬間、心臓が早鐘を打つ。
そこにいたのは、穣が恐れていた女性だった。
わけが分からないというような表情を浮かべている鬼柳の横顔が見える。
「けん玉しよ~。きりゅうく……」
千鶴は振り返ったと同時に、手に持っていたけん玉を落としてしまう。おもちゃ箱に背をつける。
「お、お姉ちゃん……? なに、してるの……?」
その手に握られているモノが分かったのか、千鶴は怯えながらも尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!