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「これ……。血……?」
掌にべったりとついた鮮血を見ながら、握ったり開いたりしてみる。
一度も感じたことのない、不快なべたつきと、鉄のような匂いが余計に鬼柳を混乱させる。
しばらく呆けていたが、膝が生温かくなっているのに気づいて、視線を走らせる。
手を伸ばせば届くところに、動かなくなった千鶴がいた。彼女を取り囲むように血溜まりが広がり、その一部が鬼柳の膝にまで到達していたのだ。
彼女の方がもっと赤い。
鬼柳はそう判断するや、自分のことなど忘れ、千鶴に駆け寄り、抱き上げる。
「……起きろよ。一緒にけん玉で、遊ぶんだろ。なんで寝てんだよ」
一番出血が多いのが胸だと分かり、小さな手で押さえて、震える口を強引に落ち着かせるように、声を出す。口調がガラリと変わっていることに本人は気づいていない。
覗き見ている穣にもショックは大きかったが、少なくとも、冷静になれる余地はあった。
穣のショートしていた思考がようやく動き始めたころ、彼の正面にある光景が飛び込んでくる。
倒れた千鶴とそれを抱きかかえている鬼柳の姿だった。
腕からは血がだらだらと流れていて、見ているだけでも痛そうだが、彼は千鶴のことで頭がいっぱいなのだろう。痛みすら感じていないようだった。
ここで、彼の放った一言に疑問を覚える。
あんな言葉を使うところは一度も見たことがなかった。
その間にも、鬼柳が彼女に話しかける頼りない声が響いていた。
「……一緒に遊ぶって言ったろ。明日も、一緒に学校、いくんだろ」
口調は荒いが、必死に千鶴を呼び起こそうとしているようだった。
――あんなに必死なあいつ、初めて見た。
衝撃的なことが起こったが、その男子が普段見せない表情に、興味があった。
「もう死んでるんだから、騒ぐんじゃない」
彼女は妹を殺せたことに満足しつつも、冷ややかに釘を刺すと、部屋を去った。
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