第三章 知られざる過去が明るみに

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「これ……。血……?」  掌にべったりとついた鮮血を見ながら、握ったり開いたりしてみる。  一度も感じたことのない、不快なべたつきと、鉄のような匂いが余計に鬼柳を混乱させる。  しばらく呆けていたが、膝が生温かくなっているのに気づいて、視線を走らせる。  手を伸ばせば届くところに、動かなくなった千鶴がいた。彼女を取り囲むように血溜まりが広がり、その一部が鬼柳の膝にまで到達していたのだ。  彼女の方がもっと赤い。  鬼柳はそう判断するや、自分のことなど忘れ、千鶴に駆け寄り、抱き上げる。 「……起きろよ。一緒にけん玉で、遊ぶんだろ。なんで寝てんだよ」  一番出血が多いのが胸だと分かり、小さな手で押さえて、震える口を強引に落ち着かせるように、声を出す。口調がガラリと変わっていることに本人は気づいていない。  覗き見ている穣にもショックは大きかったが、少なくとも、冷静になれる余地はあった。  穣のショートしていた思考がようやく動き始めたころ、彼の正面にある光景が飛び込んでくる。  倒れた千鶴とそれを抱きかかえている鬼柳の姿だった。  腕からは血がだらだらと流れていて、見ているだけでも痛そうだが、彼は千鶴のことで頭がいっぱいなのだろう。痛みすら感じていないようだった。  ここで、彼の放った一言に疑問を覚える。  あんな言葉を使うところは一度も見たことがなかった。  その間にも、鬼柳が彼女に話しかける頼りない声が響いていた。 「……一緒に遊ぶって言ったろ。明日も、一緒に学校、いくんだろ」  口調は荒いが、必死に千鶴を呼び起こそうとしているようだった。  ――あんなに必死なあいつ、初めて見た。  衝撃的なことが起こったが、その男子が普段見せない表情に、興味があった。 「もう死んでるんだから、騒ぐんじゃない」  彼女は妹を殺せたことに満足しつつも、冷ややかに釘を刺すと、部屋を去った。
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