第三章 知られざる過去が明るみに

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 自分に近づこうと必死になって手を伸ばしていた千鶴の苦痛に歪められた表情を。力尽きた後駆け寄って、抱き上げると彼女が満足そうに微笑んでいたことを。なにをしても答えない千鶴に、もう息を吹き返すことがないとようやく悟った鬼柳は、仕方がないとはいえ、見ていただけの自分を激しく責めた。彼女の名前を呼んだ後、心の中で何度も〝ごめんな〟と謝り続けた。  なにかを言いたそうに、口を動かし、伸ばしてきたその手を握り返せなかったのだ。その事実は覆らないが、冷たくなりつつある彼女の手を握った。ほんの少しの間だけでも、そうしてあげたかった。もう二度とこんなふうに触れられる機会はないような気がしたから。痛む腕が、胸が……忌々しい。せっかくの、千鶴との時間を妨げようとしているようだった。  鬼柳は最期まで千鶴に寄り添い続けた。  それは、話を聞いたことでようやく思い出せた千鶴の最期だった。心の中にいる千鶴に謝った。  ――ごめん、千鶴。君の最期を見ていたのに、今の今までずっと忘れてしまって。  獅乃は悔しそうに顔を歪ませ、舌打ちをした。  ――俺がもう少し、早く正気に戻って、駆け寄りさえすれば……千鶴の最期を、ちゃんと見られたってことかよ……!  当時はそれで仕方がなかったとは、どうしても思えなかった。
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