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『もしも~し、獅乃~?』
場違いなほどに軽い口調で、穣との電話が続いていることを思い出した獅乃は、苛立ちをあらわに、低い声で応じた。
「まだあるか?」
『ねぇよ。話せてこっちはスッキリしたぜ』
穰の清々したという口調に、唇を噛みしめた獅乃は、無言のまま通話を終了した。
それに倣って、滝坂も録音を終了する。
獅乃はスマートフォンを懐に仕舞って、右手の甲を額にあてて、シートにもたれかかった。横目で滝坂を見る。
「説明、いるか?」
「……いらない」
拗ねたような言葉を最後に、滝坂の頬から涙が伝う。緊張の糸が切れたのか、声を抑えながらも、涙がとめどなく溢れてくる。
「お前が泣くなよ」
「あんたの代わりなんてしたくない!」
滝坂は泣きながら怒鳴った。
「だろうな」
内心では、あえてそう言った滝坂に感謝しつつも、獅乃は素っ気なく告げた。
獅乃は無言で、聞き込みをする予定の場所へ車を発車させる。
運転しながら、獅乃がボソッと言った。
「聞き込みはしないぞ」
「えっ?」
そのためにきたんじゃないの? と言わんばかりに聞き返された。
「適当にぶらつくから、その顔、なんとかしておけ」
獅乃は溜息を吐きながらぶっきらぼうに告げて、車から自宅周辺の様子を探ることに決め、アクセルを踏んだ。
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