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車に戻ると、獅乃は運転席に座り、ハンドルをドンッと拳で叩いた。
右手を胸ポケットに突っ込んで、ジッポライターを取り出すと、カシャカシャとふたを開け閉めしだした。
「わざわざ殺すことないだろ!? そんなことして、なんになる! 誰も幸せにならないじゃないか!」
獅乃が言いながら、怒りをあらわにしてハンドルの持ち手の上に拳を振り下ろす。
ドンッという鈍い音が響いた。
「確かに。だけれど、死んで当然というべき屑も、世の中にはいるよ」
「そんな奴でも、罪をきっちり償わせなければならない。……俺は、赦さない。どんな理由があろうとも、人殺しを野放しにはできない」
怒りに染まった双眸で、獅乃は前方を睨みつけた。
「……」
確かにその通りだと思いながら、滝坂は声をかけなかった。
獅乃が怒りを強制的に治めたタイミングで、警視庁に戻った二人は、車内で打ち合わせていた通り、別行動を取った。
獅乃は犯行後の犯人の様子を想像していた。
滝坂は監察医に話を聞きに、車を走らせた。
十分ほどで辿り着いた、目の前に聳え立つ監察医務院を一瞥して、監察医のいる二〇二号室へ向かった。
事前に連絡を入れていたので、躊躇わずにノックをすると、低いトーンで応答するのが聞こえてきた。
電話をしたのに忘れていたのか、それとも、ただ疲れているのか、怪しいところだ。
そんなことを考えながらふっと苦笑を浮かべると、滝坂はドアを開けた。
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